実は私の楽しみの一つは、海外ドラマや映画を見ることである。映画も好きだが、どちらかというとドラマの方が気負いなく細切れに見ることができるし、一つハマればしばらく見続けることができるので、選んだり期待外れでつまらなかった、という手間が少なくなって気に入っている。
昔はスカパーなどに契約して色々見ていたし、その後はHuluなどのサービスで見たりもしていた時期があったが、海外暮らしをするにあたって、しばらく間が空いてしまった。(Huluなどは海外からのアクセスでは見られないし、Netflixにしてもその地域での配信になるので日本語字幕などが出せなくなる)
しかし今は色々契約しては見ている。やはり動画配信サービスというものは最高だと思う。
今回は私がNetflixで一番ハマったドラマシリーズ、「ザ・クラウン(The crown)」について語りたい。
現役の女王、エリザベス2世を主人公とし、登場人物も全て実在する
もうこれって、日本人からするとビックリである。今上陛下と皇后のドラマとか作られたりするだろうか。たとえよくある皇室番組の、あたりさわりない、腫れ物に触るかのようなタッチのストーリーだとしても、俳優とか女優を立てて、ドラマ仕立てになんてするだろうか?たとえ無害なストーリーの再現風だとしても。
今思い返してみても、そう言えば先日、表現の不自由展というもので昭和天皇の写真を焼くというのが作品の一部にあったことで大分物議を醸していたが、もう亡くなって30年も経っていても、右と言われる人々だけではなく一般的なような人(日本が全体的に右傾化しているのもあるが)もかなり抵抗があったようなので、なかなか皇室に関しては日本人もアンタッチャブルなのだなと思わざるをえない。
しかしこのドラマは実在する王室メンバー、それもエリザベス女王をはじめ、殆どの登場人物が現役という設定で、実際のエピソードに合わせて生々しく感情をぶつけ合う人間ドラマなのである。
もちろん神々しく描かれている部分もある。そういう意味で私が好きなシーンといえばアフリカ外遊中に父ジョージ6世が亡くなり、帰国したエリザベスに対し、祖母のメアリー・オブ・テック(この人はつまり息子が死んだばかりなのである!)が張り詰めたような顔で見つめた後、恭しくカーテシー(あの目上の人に対する最上級のお辞儀)をするところである。
しかし逆に夫のフィリップ殿下がエリザベスの付属物に過ぎないと嫉妬心を抑えられずに迷走するシーンや、妹のマーガレット王女の恋愛シーンや姉妹間の複雑な感情、などなど「こんな風に描いちゃっていいの」と驚いてしまう。
そしてシーズン3に至ってはチャールズ王太子とカミラ夫人の馴れ初め、そしてそれが祖母の王太后や大叔父(フィリップ殿下の叔父さん)によってどう阻止されるか、というところまで描かれているのである。
見ていると、それがまるで全て事実の再現かのように思えてしまう。もちろん実際の会話や心情など、脚本家の想像に過ぎない。しかし実際の出来事に合わせて作られているのだから多くの視聴者はそれが再現であるかのように思えてしまうだろう。
印象的なシーン
上でも書いたが、祖母のメアリー・オブ・テックが、王女から女王になった孫娘に対し、もはや自分の上に立つものという立場の表明を示すために恭しくカーテシーをするところはグッと来た。
このメアリー・オブ・テックといえば、王妃としての職務に忠実なあまり、人間味にやや欠けるとも表された人である。ドイツ出身であるため、第一次世界大戦の時は国民の「敵国からきた王妃」という感情を避けるために軍人の慰問に励むなど公務に専心する一方で、子供たちへの愛情は薄く、てんかんを持つ末の王子(夭逝)にあまり母としての愛情を見せなかった人として知られている。
しかしエリザベス女王はこの祖母への敬愛は深かったようで、亡くなってからも度々言及する。
他にはフィリップ殿下が息子のチャールズのイートン校に通いたいという希望も無視して自分の母校を強いるシーン。
彼はクーデターにより祖国のギリシャから亡命を余儀なくされ、母親の精神的な病のせいもあって一家離散状態でイギリスの寄宿学校に通い、イギリスに帰化しているのだが、姉たちがナチス時代にドイツ人と結婚していたことにより、チャーチルを始めとしてあまり良縁とは思われていなかったというところが度々描かれている。
その寄宿学校生だった頃に母が長く療養生活をしていたこともあって、保護者として慕っていた姉が飛行機事故により子供達と共に死亡してしまい、孤児になったような衝撃を受ける少年のフィリップががむしゃらにブロックを積み立てて学校の門を作ってしまうところを見つめる校長。
そういう非常に深い人間の葛藤みたいなものを、実在する王室のメンバーを使って描いているこの作品。
妹のマーガレット王女の、周囲による王太女とただの王女との扱いの差における微妙な姉妹の感情の機微なども容赦なく描き出していたり、もちろんチャールズ王太子とカミラ夫人の出会いと別れのシーンも興味深い。
世界で最も有名な王室は、遠い極東の日本人にとっても引き付けられるようなドラマチックな人生を生きている、とつくづく味わえてしまう作品である。
Netflixも
を使ってTVで見るのがオススメ。
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