【海外ドラマ/ダウントン・アビー】英国貴族ものダントツ。使用人のドラマも描かれ、一気に現実感あるストーリー

私は海外ドラマや映画が大好きなのだが、結構ジャンルは偏っていて、いわゆる「コスチュームドラマ」つまり西洋の時代劇風なものが大好きである。

王室とか貴族とか、ジェントリーなどの世界が好きで、ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」とか「分別と多感」など本でも何度も読んだ。

中世末期、近世、近代と割と広い時代に渡って好きなのだが、今回紹介したいのは1912年から1925年という、第一次世界大戦を挟んだ時期なので、近代から現代の転換期を描いたダウントンアビーである。

貴族だけではなく、メイドや執事など労働者階級の人々のストーリーも描かれている

これまで、王室にしろ貴族にしろジェントリにしろ、そういう階級の人々を主人公にしたストーリーというのは、せいぜいが中流階級の成り上がりとの接触が描かれているくらいだった。

メイドや執事などは殆どセリフもなく、ただ家具のように生活の中にあるべきものとしてセットの中に置かれているだけで、全く人間のドラマなどは描かれていなかった。

人は誰しも、支配階級側にいたいわけで、子供のお姫様願望なども、ドレスを描いたりお城を夢見たりするのもそういう世界への憧れを多くの人が生来持っているということなのだと思う。

しかしそういう人は限られているから支配階級なのであって、ほとんどの人はそちら側にいない。

現代は英国でも20世紀後半にかなり社会が変容し、特に労働者階級から中流階級への移行がかなり進んだ。

しかし当時は実に9割が労働者階級であり、中流階級が1割弱、とするとこのドラマのスポットライトを浴びている伯爵家のような上流階級は、というと、これは0.1%以下の人々なのである。

伯爵の甥がタイタニック号沈没で行方不明となり、死亡と推定されたために、遠い親戚にあたるマシュー・クローリーが急遽後継人となるのだが、彼は弁護士であり、中流階級だった。

現代の日本人の感覚では弁護士や医師というのは上流だが、これは現代英国でも厳然とミドルクラスである。上流というのはあくまでも貴族とか、それに準じる領主(ジェントリ)とかのことなのである。

このマシューは何代か遡った伯爵の子孫ということになるわけだが、このように中流と上流は交差している。上流の子供達、その子供達と代が下がるに連れて爵位やタイトルを引き継がない者が多くなるので、中流になっていくのである。

しかしこのように寝耳に水というような形で、中流に生まれて暮らしていても、突如伯爵の後継者になる、というようなこともありえたのだった。

だからこれまでのこうした貴族だとか、ジェントリーだとかを主人公にしたドラマや映画は中流階級の人達がそれなりのキャラクターを持って登場はしてきたのだが、労働者階級というのは殆どエキストラみたいな感じでしかシーンの中に織り込まれていなかった。

ところが、このドラマではメイド達や従僕、執事、料理人、小間使いに至るまでキャラクターが繊細に描かれており、人間らしいドラマが貴族達と並行して、そして時には交差しながら進行していく。

こういうのは殆ど初めてなのではないだろうか。

 

姉妹の複雑な感情や、労働者階級間の意識差など現実的な人間の感情を描いている

この伯爵家には3人娘がいる。当時、爵位は女子は引き継げなかったようで、長女は自分が女子であるということにどこか引目を感じつつも、引き継ぐことのできる遠い親戚と結婚して、実質後を継いでいくという役目を自覚している。

次女は長女、三女ほど美人ではないという設定であり、特に姉に少なからず嫉妬心を抱いているし、自分の存在意義を求めて迷走気味なところもある。

この長女と次女は基本的に仲が悪く、長女は無神経にも次女のコンプレックスを刺激するような言動を度々取ってしまうため、次女が報復に出てしまう。

それが後に発覚し、長女のメアリーは次女のイーディスを許さない。それは最終シーズンまで延々と続く軋轢なのだ。

しかし、そういう状況であるにもかかわらず、時々は「あなたとは仲の良い姉妹とはいえないけど、今日はあなたの幸せを祈っているわ」というシーンもあり、それなりの姉妹の絆もある。

そして三女のシビル。彼女は長女のような棘もなく、容姿も端麗で、誰に対してもとても優しい。しかし伯爵令嬢ながら政治に関心が強く、自分の意見を持ち、階級を超えた恋愛に走る。という非常に強いキャラクターだ。

長女も次女もこの妹には非常に姉妹愛を持っていて、彼女のためには普段仲が悪くても共に駆けつける。

対して階下の使用人たちの間でも、伯爵を非常に敬愛している執事、それに対しては冷めている家政婦長、伯爵と戦友で今は従者のベイツ、そしてメイド達、彼らの労働者階級としての感情が様々に交差していて非常に見応えがある。

これまで心を持たぬ付属品のように置かれていた彼らが、生の感情をあらわにしながら会話しているのだ。

そして普段は信用ならない、エゴイストそのものの人間が時にはシビルの優しさに触れて友情のような心を抱いたり、涙を見せたりする、善人、悪人とはっきり分けずに描いているところも非常にリアリティがある。

とにかく出てくるキャラクターを詳細に描いていて、細部に至るまでドラマがあるのがこのシリーズである。

↑ブルーレイで全部揃えると高いけれど…

 ←Amazonプライム会員になると見れるので、オススメ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました