【Netflix】世界中で話題になったエリサ・ラム事件「事件現場から:セシルホテル失踪事件の詳細」

Netflixでは海外ドラマシリーズとか映画を見るだけではなく、割と犯罪ドキュメンタリーも結構充実している。

こういうのはフィクションよりも、ドキュメンタリーの方がハマる。実際に起きた事件と思うと海外生活してたせいもあって、身近に感じられ、リアルに色々想像してしまうからだ。

結構日本の番組でも紹介されてる事件が多いのだけど、やはり日本の番組よりも圧倒的に深掘りされている。

今回はLAの街中のホテルで失踪した香港系カナダ人の女子大生が失踪直前にエレベーターの防犯カメラに残されていた様子が世界中で拡散され、話題になった

エリサ・ラム事件

を取り扱った「事件現場から:セシルホテル失踪事件の真相」

を見終わって、まだその衝撃と感慨の中にいるうちに書いておきたいと思う。

事件の概要(この事件が騒ぎになるまで)

まずはこの事件が騒ぎになるまでの概要を。

一人旅中のカナダ人女子大生が治安の悪い地域のユースホステルに宿泊中、行方不明に。

失踪したのはバンクーバーに住み、カナダ屈指の名門、ブリティッシュコロンビア大学に通う香港2世の21歳のカナダ人のエリサ(Elisa イライザではなくエリサに近い発音をするらしい)。

彼女はブログやTumblrなどでマメに発信していたらしく、旅行中も随時更新していた。

そしてバンクーバー郊外で中華レストランをしている両親にも毎日電話をかけていた(それが一人旅に出る時の約束)。

しかしサンディエゴからロサンゼルスに入り、街中のセシルホテルというユースホステルに宿泊中、姿を消す。

彼女は最初はユースホステルの相部屋だったのだが、同室の宿泊者とトラブルになり、ホテル側の配慮で個室に移されていたこともあり、ホテルスタッフが一人でいるところを見かけた以外は目撃情報も少なかった。

実はホテルのある場所は全米でも屈指の治安の悪い地域であり、ホテル自体も安全とは言いかねる場所だった

このNetflixのシリーズでは、セシルホテルの歴史についても振り返っている。

1920年代に建てられたセシルホテルだったが、1930年代の世界恐慌により経営が傾き、周辺地域がホームレスやドラッグ売買のはびこる地域となり、ホテルが元のように普通のビジネスホテルとして経営することは困難だった。

そして徐々に、アパートを借りられる財政状況にないホームレスが多く長期滞在するようになったのだ。
ちなみに、日本では、ホームレスというと路上生活者のイメージが強いが、欧米では時々こうした宿泊施設に身を置く人々のこともホームレスと定義している。

次第にホテルは一般的な滞在者と、居住者が混在するようになったが、周辺の地域の雰囲気もあり、治安は極端に悪くなった。

ホテルの支配人女性は10年間勤務している間に自殺など80人もの死に遭遇したと言う。

また、それ以前には全米でも有名になったような殺人事件の犯人が滞在していたり、別の強姦殺人事件の現場となったりもした。

そんなホテルを、名門大学に通うカナダ人の女子学生が選んでしまったのか?

実はこの事件の前から、ホテルは何とか生まれ変わろうとしていた。当初は居住者を追い出して建て直そうという計画だったが、市の「居住用ホテル(ホームレスが屋内に滞在できるようにするためだろう)」に指定されていたため、無理だった。

そこで、ホテルは居住者用と一般のユースホステルを分けて、ユースホステル滞在者用のフロントを別に設けることにした。

部屋の内装も変え、オシャレな、現代的な雰囲気にしてインターネットに掲載した。

そのため、LAの土地勘がない人にとっては、バジェットトラベラーには最適な、安くて良い感じのユースホステルに見えてしまったのだ。

実際、居住者用のフロアとユースホステルのフロアは分かれていたし、フロントの雰囲気も悪くなかった。

しかし、完全に分けたつもりでも、ある場所だけは両者で共用する場所があった。

それがエレベーターである。

失踪直前のエレベーターでの様子が不可解すぎて世界中で拡散され、話題に

LAの市警はホテルに警察犬も導入し、法的に立ち入りが可能なあらゆる場所を捜索した。

しかし警察犬の感知も途切れてしまい、彼女は一向に発見されなかった。

ホテルの外での捜索も行われたが、警察は彼女がホテルから外に出ていない、という見方をしていた。

というのも、失踪直前の彼女の姿がエレベーターの監視カメラに捉えられ、その後彼女がホテルから出た姿はどのカメラにも記録されていなかったからである。

しかし、そのエレベーターの監視カメラでに捉えられた彼女の様子は非常に不可解なものだった。

乗り込んだ彼女は上から下まで中央列のボタンを全て押し、その後角に隠れるような様子を見せた後、外の様子を左右に窺う。そして結局エレベーターの中から出て左の入り口のところに留まるのだが、不可解な手の動きをして、それが何とも言えず不気味で、彼女の意図が全くわからない。

そして何故エレベーターは長い間閉まらないのか?

ということと、カメラの映像から彼女の姿が消えてから扉が閉まり、また開くという動作まで写されている。

市警が情報を求めるためにこの映像を公開すると、瞬く間に拡散され、アメリカだけではなく国際的な注目を集める結果となった(日本でも取り上げられた)。

この時、彼女の生死は定かではなく、この映像を見た市井の人々が生存している間に彼女を救い出そうと、インターネット上で大推理合戦を繰り広げることとなった。

結果的に彼女はおぞましい形で発見されることとなった…

失踪から19日、まだ彼女が発見されず、警察だけではなく一般の探偵もどきの推理家たちが議論している時、ホテルでは宿泊客がある異変を訴えていた。

洗面台の水圧がおかしく、水が出にくくなっている。
水の色がおかしく、変な味がする。
というものであった。

そこで支配人は、こうしたメンテナンスを委託しているメキシコ人業者に貯水槽の点検を依頼した。

業者は屋上にある貯水槽にはしごを昇って赴き、貯水槽の中を覗いてみると…

失踪中の彼女が裸で浮かんでいたのだった。

彼女の衣服は貯水槽の中から発見され、エレベーター映像の服装と同じものだった。

また、死体の腐乱具合からも、あのエレベーター映像から死亡までの時間は長くなかったとも推察された(水中にずっといたため、死亡推定時刻は通常の状態よりも正確な特定が難しくなるらしいものの)。

当然、インターネット上では「誰が殺したのか?」と騒然となった。

この彼女の遺体発見の知らせは、彼女を生きて発見したいと燃えていたネット上の推理家やYoutuber達、そしてそれに注目する無数のネットユーザー達にも大きな衝撃を与えた。

Netflixのシリーズに出た「推理好き」の一人は

彼女とは面識がないにも関わらず、友人や妹を失ったようなショックだ

と語っている。

しかしこの悲劇的なニュースの後、

一体誰が殺したのか?どのように貯水槽まで運ばれたのか?

という推理がネット上で展開されることとなる。

そしてある一人のミュージックアーティストが槍玉に挙げられることもあった。事件の1年前にセシルホテルに宿泊しているところをYoutubeにアップロードしていること。そして事件の数日前に女性を森の中で追いかけ回し、殺すというようなコンセプトのミュージックビデオをアップロードしていることで、彼は猟奇性を持った人格でありセシルホテルにも繋がりがあるとして注目されたのだった。

しかし彼は無関係であり、ミュージックビデオは単に彼のアートの表現に過ぎないと主張したにも関わらず、ネットでの誹謗中傷が続き、遂には自殺未遂を起こしてしまうほど彼は追い詰められた。

それほど彼らはエリサ・ラムの事件の真相を追い求めていた。

(ネタばれ?)LA市警の結論

誰もがエリサ・ラムは殺されたとして、その推理に夢中になっていたのだが、なんと警察は「事故」と発表した。

事故?

この結論に、多くの人が納得がいかなかったのも無理はない。

あのエレベーターの映像では彼女は14階で降りたとわかるが、そこから屋上に行くドアはロックされていて、警報を鳴らさずに通ることはできない。

しかしもう一つルートがあり、14階の廊下の窓から出て非常経路を通ると屋上に出ることができた。しかしそれにははしごをのぼらなければならず、足を踏み外せば地上まで落下する危険性が高い。普通の感覚であれば怖くてそんなことはできない。

しかし警察犬は確かにその窓のところで、彼女の匂いを見失っていた。

そして屋上から貯水タンクの中に入るにもはしごを昇らねばならず、また蓋は非常に重いものである。

どうしてそんなところに女性が入り、溺死するというのだろうか?

多くの人は警察の発表をばかげている、殺人に違いないと考えていた。

4エピソードを最後まで見て、結局警察の結論通りだろうと思った

私もこのシリーズを見ている途中までは

事故だなんてまさか!

と考えていた。

しかし結局のところ、最後まで見てみると警察の見解は理にかなっていると思った。

というのも、彼女は双極性障害(いわゆる躁鬱病と言われていたものだが、うつ病とは異なる)を患っており、それも重度だったにもかかわらず、検死とホテルの部屋に残されていた処方薬の数から考えて、彼女は死の直前期は自分で勝手に服用を少なくしていたか、やめていたことがわかったということなのだ。

双極性障害の自覚としては、うつ状態にある時が辛いと感じるのだが、精神病質としては躁状態にある方が危険が高く、重度になると幻覚や幻聴を見る場合もあるということである。

多くの双極性障害ではそこまで異常と本人も周囲も思わない軽躁期と長期のうつ状態を繰り返す2型と言われるものだが(そのためうつ病と誤診されやすい)、彼女の場合は極端な躁とうつを繰り返す1型であり、彼女の姉は以前にもエリサが何かに怯えてベッドの下で震えながら隠れていることがあったと話した。

そのため4種類の薬が処方されていたのだが、彼女はそれを「薬漬け」と感じて悩んでいたという。

もしかしたら一人旅を無事にこなしているという自信から、薬を減らしてみる、あるいはやめてみたらどうなるか、と試してしまったのかもしれない。

それを裏付けることとしては、当初から気になっていた

同室の宿泊客とのトラブルで個室に移った

ということなのだが、これを聴いた時に、写真の真面目そうな雰囲気から「どういうトラブルがあったのだろう?」と不思議に思っていた。

これについて支配人が「実は他の宿泊客のベッドに攻撃的なメモを置いたり、鍵をかけて閉め出したりしたので、苦情がきた。そこで彼女を個室に移した」と証言したのである。

また、支配人自身にも、奇行を見せた(10年セシルホテルに勤める彼女は宿泊客のそういった奇行に慣れていた)と証言した。

そのように処方薬を指示通り服用しなかったことで、強い躁状態に陥った、と考えると

あのエレベーターの様子も何かに追われているなど、強い混乱状態にあったのではないか

と考えても合点がいく。

そしてあの映像を解析すると、彼女は一番下の”HOLD”ボタンを押していた。

これを押すと通常は数十秒で閉まる扉が2分以上開くようになっているということである。

しかし混乱状態にあった彼女は自分で”HOLD”ボタンを押したことに気づかず、なぜ扉が閉まらないのかますます混乱してしまったのではないだろうか。

というのも、単なるアルコールの酔いと一緒にしてしまうのは不適切かもしれないが、よく酔っ払いの行動として、そういうことはある。

そして外を窺ったりしたのは誰かが外からエレベーターのボタンを押しているのかと見た、とか、外に出て手をひらひらさせたのはセンサーを試すつもりだったのかとか、少し想像がついてくる。

そのうちに何か誰かに追われているというような恐怖観念に取り憑かれてしまったとしても、そこまで突飛ではないと思う。

インターネットでは「じゃあなぜ裸なのか」ということも議論されたが、検死の結果、性的暴行もそれ以外の暴行の跡も認められなかった。

溺れそうになる過程で重さを減らすために自ら服を脱いだ、あるいは凍死者によく見られる「矛盾脱衣(低体温症に陥った結果、脳が暑いという間違った指令を出してしまい、衣服を脱いでしまう現象)」ということも十分考えられた。

どうしても若い女の子が夜、はしごを使って貯水タンクに辿り着き、暗いタンクの中に自ら入るというのが想像もつかないが(いくら躁状態に陥っていても、そういう恐怖心も無くなるものなのだろうか?)、それよりも大きな恐怖に煽られて隠れたい一心だったのかもしれない…

追記:ちょっと思ったのは…

(投稿から3日後の追記)

あれからまだ考えていたのは、

いくら強い躁転していて幻覚などの混乱状態にあっても、自ら貯水槽に入る、それも夜に、あまりに恐怖なのではないか?

という点だった。

そういうことをするということは、何かそれを上回る恐怖を感じていたのではないだろうか。

少し思ったのは、もしかして彼女は火事という幻覚を見ていたのではないだろうか。

そう考えると、エレベーターのボタンを押しまくったこととも辻褄が合うような気がする。

一気に階下まで行こうとしても、途中でエレベーターが止まるかもしれない、と考えて押しまくったのではないだろうか?

そして自分でホールドボタンを押したのに気付かず、

火事のためエレベーターが動かない

と思い、屋上に避難し、結果貯水槽に入って火事から身を守ろうとしたのではないだろうか…

もちろん今となっては確かめようがないが、そう考えると辻褄が合う。

好奇心が主かもしれないが、彼女に優しいネット民

殺人ではなく事故だとしても、若い女の子が酷い状況で死に至ってしまったことには変わりない。

私がNetflixでのシリーズ以外でも、少しこの事件への反応を見ていて、悲劇でしかないこの事件に少しでも何か見出せるとしたら、

殆どの人が彼女に同情の念を示し、彼女に対する誹謗中傷が(私が見た限りは)見られないこと

だと思う。

当たり前のようだが、私はしばしば日本ではそれが当たり前ではない雰囲気を見てきている。

特に女性が殺人の被害者である場合も、なぜか被害者への中傷や「殺されるに値する理由」を挙げるような言説があまりにも日本にはあるのだ。

インターネットでは本当にひどいが、40代としてはインターネットが普及する前の社会もよく記憶していて、痛ましい事件の被害者である女性たちが

「一人で夜に歩いていたからだ」

「一人で旅行などするからだ」

などと、殺されても仕方がないとでもいうような言い方が、各メディアでなされていて、人々の意識もそういうところがあったのを忘れていない。

まして事故となると

「本人の過失で他人に迷惑をかけた」

という発想が先立つところがあって、これが日本で起こった事件だったら…と思ってしまう。

本当に事故かはわからないので、仮に彼女を死に至らしめた人物(殺人でなくとも)がいたら、必ず捕まって欲しいと思っているが、いずれにせよ安らかに眠って欲しいし、遺族の方の心痛が少しでも癒えることを願っている。

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